誘う女

マイミクシィmomoさんの日記に「夏木マリのような"おいでおいでポーズ"」という一節が出てきたので、思わず「それは"ちあきなおみ"じゃないのですか」というコメントをつけてしまった。よく調べてみると、momoさんは「絹の靴下」(1973年夏木マリ)、私は「夜へ急ぐ人」(1977年ちあきなおみ)をそれぞれ思い浮かべていた、ということらしい。失礼致しました。

夜へ急ぐ人

夜へ急ぐ人が居りゃ
その肩止める人も居る
黙って過ぎる人が居りゃ
笑って見てる人も居る

かんかん照りの昼は怖い
正体あらわす夜も怖い
燃える恋ほど脆い恋
あたしの心の深い闇の中から
おいでおいで
おいでをする人あんた誰

小学生時代にこの歌に出会った私は、脳天を突き抜かれたような衝撃を受けた。歌というものはみんなで楽しむものだと思っていたが、この曲は決してそのようなものではなかった。ちあきなおみ野坂昭如岡本太郎のような得体の知れない人達が、ウルトラセブンや欽ちゃんが活躍するのと同じテレビから飛び出してくるのが不思議でならなかった。

1980年代の終わりに、旧国鉄汐留貨物駅跡地の汐留PITという仮設のコンサートホールで「第4回全日本フォークジャンボリー」というイベントが開催された。ここで私は友川かずきという歌手を初めて知った。中原中也の詩に曲をつけたり、「生きているって言ってみろ」という過激なナンバーがあったり、とてもユニークなアーチストだった。その時には演奏しなかったが、「無残の美」という曲がある。鉄道自殺をした弟に呼びかける壮絶な内容のものだ。漢字は違うが、その弟の名はサトルという。私の名もサトル。

ちあきなおみの「夜へ急ぐ人」の作詞作曲が友川かずきだと知ったのは、ここニ、三年のことだ。とても驚いたが、なるほどと腑に落ちる感じがした。ちあきなおみの「あまぐも」というCDは、前半が河島英五、後半が友川かずきの作品で占められたアルバムでとても気に入っている。アレンジ担当はミッキー吉野で、聴いていると制作当時の空気が真空パックされていたかのようだ。NHKの「少年ドラマシリーズ」のBGMが確かこんな雰囲気だったと思う。ミッキー吉野、中江ジャーナル社長、ふとがねきん太が正しく区別できる昭和好きの方にはマストアイテムである。