崖の上のポニョ

特撮派のやりちゃんは、アニメ・コミック文化には一定の距離をおくものである。宮崎駿小林よしのりと言えば、私にとっては、野坂参三徳田球一のような存在ではあるが、この三連休の企画として、5才の娘と「崖の上のポニョ」を劇場に観に行くことになった。パンフレットで宮崎は、「俺様のこの映画で、病んだ社会をキュアしてやる」と豪語していた。この人は、一体何様のつもりなのだろうか。

結論を先に述べれば、確かに言うだけのことはあった。実際、大したものである。自らのスタンスに固執して、この作品を不当に低く評価すれば、この日記自体の信頼度が損なわれてしまうことになる。「崖の上のポニョ」はいい映画だから、是非観に行った方がいい。

冒頭から、大きなスクリーンでイメージの洪水に翻弄され、圧倒され、素晴らしい体験をした。人魚姫を下敷きにしたようなストーリーで、さかなのポニョが人間の姿になり、天変地異を伴って、主人公の少年の下にやってくる。津波の波頭をポニョがひたすら駆けてくる場面は感動的で、後々の語り草になることだろう。駆けて来た娘はポニョで、夏に来た娘は水沢アキである。脇役として介護施設に通う老女が数名登場するが、その中に一人皮肉屋がいる。彼女は後に主人公達に警告を発する重要な役割を果たす。とても面白いキャラクターだと思う。

入り江の小さな漁師町が舞台になっているが、作画にあたり、よく取材をしたのだろうな、という印象を受ける。とても風情のある作品に仕上がっている。入り江の漁師町と言えば、子供の頃に観たブラザー洗濯機「新珠」のCMを連想する。これも風情のあるCMだった。潮風を浴びても錆びない、というところがセールスポイント。私はマンション、団地の改修工事に携わっているが、現在でも稀に洗濯機をバルコニーに置いている人がいる。

主人公の母親の声を、女優の山口智子が当てている。はっきり言って、これは最低だ。セリフを棒読みしているような感じで、一切の感情移入や共感を拒絶している。余り他に例の無いマイナスの自己主張である。これが誰なのか気になってしまって、今一つ作品に集中できなかったくらいなので、決して元から山口に対して先入観を持っていた訳ではない。私はアニメ映画界の発展を望んでいる立場ではないので、DVD化の際には声を変えろ、とかそういうことは言わない。むしろこのままでよい。次回作にも、主役級に菊川怜あたりをお奨めしたい。作品全体として話題作りの為か、プロの声優が少ないが、所ジョージ長嶋一茂はよく頑張っていて、それなりに味わいがあり、いい仕事をしていた。

帰りにレコード屋に寄って、主題歌のCDを買った。指で細長い形を示しながら、「シングルのコーナーは何処か」と尋ねたら、「今はそういうものはない」と言われてしまった…。心底驚いた。