ハートに火をつけて

現場への通勤は電車が中心だが、大きな荷物を運ぶ時などは会社の自動車を使うこともある。普段は帰りの電車の時刻を気にしながら残業をしているが、自動車の場合には「いつでも帰れる」という気分になり、つい、夜更かしをしがちになる。これは私が仕事熱心な勤労者だと言いたいのではなく、「ちょっとした休憩」がとてつもなく長くなるということを意味している。

NHKの「ラジオ深夜便」と言えば、タクシー運ちゃん御用達番組だと思っていたが、この間は、吉田美奈子のインタビューをやっていて、他局へ変えるタイミングを失った。今更ながら、ラジオは低予算で内容の濃い番組の制作できるメディアだと実感した。吉田は最近になって、渡辺香津美の伴奏のみのアルバムを出したのだそうだ。真夜中の高速道路を走りながら、その中の「ハートに火をつけて」を聞いた。ドスの効いた迫力のある声と巧みなギターの掛け合いに聞き惚れた。オルガンのソロパートが結構オリジナルに忠実にギターで再現されているように思えた。これはこれですごいと思ったが、こうなってくると、あのピーピー安っぽいオルガンでも聞いてみたくなるものだ。結局若い頃に夢中になった音楽の呪縛から一生逃れられることはないのだろう。

しかし、自動車の運転中に聞くのはこれくらいにしておいたほうがいい。オリジナルの「ブレイク・オン・スルー」を聞くと、人はとてつもなく凶暴になる。すぐに「デ・アザー・サイド」に到達してしまうことになりかねない。これでも妻子ある身だ。