ありふれた奇跡

私は常に現場の備品へ自転車を加えるようにしている。そのことにより、動きの鈍い私でも行動半径が広がり、ひいては作業場の運営に寄与するからである。

昨日の昼下がりに隣町まで自転車で用足しに出掛けた。目的地近くで信号待ちをしていると、反対側に15年前に別れた恋人がいた。間違える筈はなく確かだった。かつて住んでいた町から80キロは離れている。自転車に乗っていたので、近くに住んでいるらしい。この地に嫁いで来たと考えるのが自然だろう。15年、80キロという数字は映画や小説にするには半端だが、それでも相当な確率だろう。買い物を後回しにしたのも気まぐれな選択だった。

驚くほど変わらない外見だった。後で何度も「よかったなあ」と思い返した。こちらは年の初めの同窓会で20年前のガールフレンドに「誰だかわからなかった」と笑われたくらいだが、それでも同級生の父親の中では一番見栄えがする、と娘は言っている。連休明けということで普段は放っているアゴ下の不精ヒゲを落としていたことが救いだ、と考えることにした。

二度目があるのがテレビドラマで、それが無いのが現実である。