高部知子の帰郷

夢を見た。背中の大きく開いたドレスを着た高部知子が駅の入口でしゃがみ込んで、コンタクトレンズだか指輪だかを探している。東武鉄道などにありがちなスレート葺きの田舎の駅舎である。夢というものは、脚本も監督も観客も全部自分なので、説明的なセリフやナレーションも無しに彼女が都会の生活に疲れてふるさとに帰ってきたのだということをいつの間にか理解している。スキャンダルの直後という設定らしい。人目を避けるように私は彼女をタクシーに押し込む。運転手があれこれ詮索してくるので後ろから運転席を蹴って黙らせるが、実は経験上、そういう運転手には出会ったことがない。高部知子と私は幼なじみということのようだ。実際に彼女は私の誕生日の翌日に生まれている。「運ちゃんがあそこまで言うから、ホテル行っちゃうか、もう」と私が言い、彼女が泣き笑いで頷くというつまらないオチで幕となったが、高部は実力派なので、この時の表情は様々なものが交錯する実に深みのある演技だった。

これは、スキャンダルを大衆に消費されているノリピーへの同情心のがあらわれたものではないか、と思っている。だけど、私はそれほどノリピーが好きではない、というよりも、むしろ積極的に嫌いな方なので、このようなマニアックなキャスティングになったのだろう。

「いいってことよ…」と寅さんみたいなセリフを私が言っていた。