再分配とバーサーカー

SFには、「タイムパラドックスもの」「パラレルワールドもの」などのジャンルがあるが、「最終兵器・究極兵器もの」と呼ばれるものもある。有名な作品の名をとって単に「バーサーカー」と称する場合もある。究極兵器、バーサーカーは、その名の通り極限の破壊力を誇り、多くの場合、その動力源を自前で調達している。ストーリーとしてよくあるのが、究極兵器が忠実に任務を遂行、威力を発揮し、敵味方が全滅。数百年間の月日を経た後に事情を知らない主人公らが不用意に接近し、現役作動中の究極兵器の襲撃を受ける、というもの。例えばスタートレック・シリーズに限ったとしても、同工異曲のエピソードが10や20ではきかないのではないだろうか。殺戮の対象が滅んでもなお宇宙空間に浮かぶ兵器の虚しさを通奏低音に、究極兵器の眼をいかに欺くか、というサスペンスが作品の見所になる。

健康保険や年金制度の綻びが注目されている。公的保険制度や税制には所得の再分配機能があり、この調整を担うのが政治の重要な役割だ、などと言われてはいるが、このことについて私は、懐疑的にならざるを得ない。そんなことを政治に期待すれば、当然のことながら、政治側は応分の報酬を求めることだろう。この報酬はまぎれもなく再分配される筈の国民の所得から何らかの形で賄われることになる。再分配の制度を管理運営するコストについても同様である。所得の再分配システムの運営や調整のコストの増大は、再分配する所得を目減りさせる。

そろそろ勘のいい読者の方は、私の言いたいことに気が付かれたことと思う。再分配の原資を極大化するには、政治、行政の関与を極小化する必要がある。所得の再分配に関する究極の姿について想像してみよう。それは国民総背番号制度を導入して、所得と消費を「鉄腕アトム」に登場したハレルヤのようなマザーコンピューターに捕捉させることによって実現することだろう。完璧無比な結果平等が達成されれば、政局や利権を糧とする政治家のような職業は無用の長物となる。住民基本台帳e-Tax、買い物のできる携帯電話や交通機関ICカードユビキタスコンピュータや監視カメラ、POSシステムなどなど、現存するハードウェア、ソフトウェアを本気になって総動員すれば、究極の所得再分配は実現できる。日本共産党社民党の皆さんはなぜ動き出さないのか。答えは簡単、それは自己否定につながるからである。世の中に結果平等社会が実現されない限り、彼らはメシの種に事欠かずに済む。

冗談はともかく、私はこの記事の始めで、宇宙空間に浮かぶ究極兵器の虚しさについて触れている。飢饉、凶作、大恐慌が猛威を揮った後に、いかに再分配が公平、公正であったとしても、それはあまり意味がない。バーサーカーねたのSF小説のように、国民が死に絶えた数百年後に再分配のシステムだけが稼動していても意味のないことだ。政治家という職業に存在意義があるとすれば、現在の税収を所与不変と捉えず、いかに原資を増やすことができるかどうかだと思う。テクノロジーを総動員しても新井白石二宮尊徳には遠く及ぶことはない。